亡国の聖女は氷帝に溺愛される


 大陸の最南に位置する魔法大国・マーズに到着したのは、城を出てから五日後のことだった。

 最短ルートで行けばもっと早く着けたそうだが、その為にはイージスの地を横断する必要がある。敢えて東の国の国境沿いを通って行くことを選んだのは、ルーチェへの配慮なのだろう。

「──ここがマーズの中枢か」

 国境の関門を越え、不思議な外観の街をいくつか抜けると、マーズの心臓部である巨大な黒い城が聳え立っていた。

 城の各所ではためいている旗は、マーズを象徴するものだ。赤地に黄金色の月が描かれている。 

 馬車を降りた二人は、共に青色の衣装を着ていた。ルーチェは聖女らしく、神聖な雰囲気を感じさせるものを。ヴィルジールはオヴリヴィオの紋章が入ったマントを羽織り、清廉な礼服を身に纏っている。

 自動的に開かれた門を潜ると、上空から炎を纏う虹色の鳥が降りてきた。流石のヴィルジールも驚いたのか、目を丸くさせながら鳥を眺めている。

「……何だ、この鳥は。昔本で見たことがあるような気がするが」

 ルーチェは笑って頷いた。
 目の前にいる虹色の鳥は、魔法使いや精霊を題材にした本に、必ずその名や姿が記されている。伝説上の生き物とされているが、幸運なことにルーチェはその翼に触れたことがあった。