亡国の聖女は氷帝に溺愛される


 ルーチェとヴィルジールは順に馬車の中で衣服を着替えた。ルーチェは菫色のドレスワンピースに、ヴィルジールはオフホワイトのシャツと青色のベストに。

 だがヴィルジールは馬車から出てきたルーチェを見た途端に、ベストを菫色のものに替え、白いジャケットを羽織った。

 きっと、気付いていたのだろう。お揃いのデザインで仕立てられたアウターが、雨のせいで着られなくなってしまったことで、ルーチェが気を落としていたことに。

「ヴィルジールさま」 

「何だ」

 ふわりと笑ったルーチェに、ヴィルジールはいつものように淡々と返していたが、その声音は長年仕えているルシアンを驚かせるくらいに柔らかかった。

 ぱちぱちと燃える火を調節するふりをしながら、ルシアンが密やかな声でセルカを呼ぶ。

「──何でしょうか。ルシアン殿」

「セルカさん、あれ、どう思います?」

「あれとは?」

 ルシアンはくいくい、とセルカの袖を引き、目線の先を見るよう促す。ルシアンの緑色の瞳に映っているのは、仲睦まじげに顔を見合わせているルーチェとヴィルジールの姿だ。

 セルカは何度か瞬きをしてから、顔を綻ばせた。 

「何かあったのだろうとは思いますが」

「ですよね! やっぱり春が来たんだろうなぁ」

「今は秋では?」

 真面目な顔つきでいるセルカに、ルシアンは苦笑で返した。