──大いなる闇を鎮めるために聖女は在り、世に光を齎すために聖王は在る。

 これは、神官たちがよく口にしていた言葉だ。呪文のように繰り返しては、フィオナの意識に深く刻みつけようとしていた。

 神官たちはいつも白い衣服を着て、ヴェールで顔を覆っていた。彼らは聖王と聖女を神殿に留め置き、やがて訪れる“来たる日”のためだけに生きているようだった。

 そんな彼らのことを、フィオナは恐ろしく感じていた。

 神官に恐れを抱いたフィオナのことを、彼らは“人里で育った所為だ”と理由をつけ、聖女であることを自覚させるために鞭を手に取った。

 だが、聖王がそれを止めた。

 ──私に考えがある。聖王は聖女を庇いながらそう告げると、南にある国へ伝書を送った。それは永らく門を閉ざしていた神殿にとって、初の試みとも言えた。

 聖王ファルシの手によって、開かれた門の向こうからは──フィオナよりもいくつか年下の少年がひとり現れた。

 少年の名はノエル。精霊を愛し、精霊に愛されていたノエルは、人の力ではできない不思議なことを行う術を持った、魔法使いだった。

 ファルシはノエルとフィオナを引き合わせ、魔法の使い方を指南するよう頼んだ。

 ノエルは二つ返事で引き受けた。その裏に隠されていたものに、気づいていながら。