亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 何の罪も犯していない我が娘と孫らを殺され、そして王族を皆殺しにし、玉座についた。そうアゼフが言っていたのを思い出す。

 だが今のヴィルジールの話では──。

「──父の心臓には氷の刃が突き立てられ、他の兄弟や妃は氷の塊になり、俺の手は誰のものか分からない血で真っ赤に染まっていた」

 殺したくて、殺したわけではない。
 行き場のない気持ちが、母ひとり救えなかった自分をどうしようもなく恨んだ結果が、惨劇を生み出してしまったのだと。そう語ったヴィルジールの手は震えていて。

 生まれてくることができなかった妹を、頬を寄せながら抱きしめてやりたかったと、ささやかな願いを告げた声は、しっとりと濡れていた。

 俯いたヴィルジールの頬に手を伸ばそうとした時、ルーチェの手にぽつりと雨粒が落ちた。

 雨の主はヴィルジールだった。白い頬を伝う涙が、またひとつルーチェの手に落ちる。

「……ヴィルジールさま」

 ルーチェの声も震えていた。雨に降られたからでも、氷帝と呼ばれる由縁を知ったからでもない。

 するりと、ヴィルジールの手が離れる。次の瞬間には、思いきり抱きしめられていた。

「……少しの間、こうしていてもいいか」

 ルーチェは返事の代わりに、小刻みに震える彼の身体に腕を廻した。

 雨は降り続いていた。ふたりの涙を、誰にも聞かせないかのように。