亡国の聖女は氷帝に溺愛される

「俺は十二番目の皇子として、皇家に生まれた。上にも下にも沢山の兄弟がいたが、一度も言葉を交わすことなく終えた者もいた」

 十二番目の皇子が何故、皇帝となったのか。否、皇帝となれたのか。その理由を、過去を、ヴィルジールは明かそうとしているのだろう。

「本来ならば、俺は皇帝になれるような人間ではなかった。母の身分も低く、後ろ盾もなかった」

「お母様はなぜ、お妃様に?」

「母は花売りだったが、先代に身染められて妃に迎えられたそうだ」

 ふ、とヴィルジールの口の端に嘲笑が滲む。濡れた前髪をくしゃりと掻き上げながら、真下に視線を落とした。

「だが母は、皇后に殺された」

 帝国における皇后とは、皇帝の正妃の称号だと書物に書いてあった。皇后が産む子供は、皇帝の座に一番近いというのに。何故ヴィルジールの母君をころしたのだろうか。

「腹の中には、妹がいた。身の程知らずだと、目障りだったからだと、それだけの理由で」

 それだけの理由で、母はころされてしまったのだと。そう語ったヴィルジールの声は、いつもよりも低く、微かに震えていた。

「我が子を皇帝にしたいがために、平気で人を殺す皇后に腹が立った。だが殺された母のために何もできない、何の力も持たなかった自分にはもっと苛立った。──それから、気がついた時には、全てが凍っていた」

「っ……!」

 思わず息を呑んでいたルーチェに、ヴィルジールの目が向けられる。彼の美しい青い瞳は、今は弱々しく揺れていた。