亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 全てを曝け出したとして、ヴィルジールは怒ったり呆れたりするような人ではない。彼は真剣に話を聞いてくれる人だ。

 だが、これから話す内容を聞いても、変わらずにいてくれるだろうか。その自信が、今のルーチェにはなくて。

(──わたしは)

 ルーチェは何度か深呼吸を繰り返し、勇気を出して口にしようとした。

 だけど、何ひとつ声にならなかった。目の奥が熱くなり、たちまち視界がぼやけていく。

 言わなければならないのに。伝えなければならないのに、言葉がひとつも喉を越えてくれない。

 はらはらと散っていく涙が、ドレスを濡らしていくのを見ていることしか出来なかった、その時。

 ルーチェの手に、ヴィルジールの手が重ねられた。

「無理に話す必要はない」

 雨音が遠くなった。世界にはふたりだけしかいないかのように、彼の低い声が耳を打つ。その優しい声音に、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じながら、ルーチェは顔を上げた。

「でも……わたしは……」

「知りたいかそうでないかと訊かれたら、知りたいに決まっている。お前がどんなふうに生きてきたのか、その隣にいた聖王はどのような人物だったのか。……イージスで何があったのかも」

 ヴィルジールは肺の中の空気全てを吐ききるような長く重いため息をついてから、ルーチェと向き直った。

「お前の気持ちが落ち着いてからで構わない。……話したくなったら、聞かせてくれるか」

「はい。……いつか、必ず」

 触れられているところが、熱い。胸の鼓動が大きく鳴っているのを感じていると、ヴィルジールが徐に口を開いた。

「少しだけ、俺の話をしてもいいか」

 ルーチェがこくりと頷くと、ヴィルジールは青色の目を森の中へと向けた。