亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 目を閉じると、あいしていると言って抱きしめてくれた人たちのことを思い出す。だけど、それ以上のことは靄がかかったように出てこなかった。声も、顔も、ぬくもりも、もう思い出せない。

「聖女は、国になくてはならないものでした。だから、神殿の人たちは私を捜していて……ある日、見つかってしまって」

 そうして、ルーチェは神殿に連れ去られた。
 今思えば、人攫いと何が違うのだろうか。聖女だからという理由で神殿はルーチェを連れ去ったが、家族からしたら娘が突然行方不明になったのだ。拐かしと変わらないだろう。

 だが、そのお陰で出逢えた人がいた。
 それだけは、神殿に感謝をしているのだ。

「無理やり連れてこられ、混乱していた私に手を差し伸べてくださったのは、ファルシさまでした」

「聖王か」

 ルーチェは口の端を上げ、目を柔らかに細めた。
 ファルシは当代聖王であり、聖女であったルーチェとは運命を共にする存在だった。白い花がよく似合う美しい人で、いつも優しく微笑んでいたのを憶えている。

「ファルシさまは優しく寄り添ってくださいました。イージスのこと、特別な力のこと、聖王と聖女の役目を、教えてくださった……」

 何も分からなかったルーチェの手を取り、イージスという国が特異な国家であることを教えてくれたのはファルシだった。

 聖王は君主であること、聖女は聖王の隣に並び立つ存在であること。そして聖女には、秘めたる役目があったこと。

 ──だけど。

「だけど、私は……」

 ルーチェはきゅっと唇を引き結んだ。そうでもしないと、唇が震えて弱音がこぼれてしまいそうだったからだ。