誰かが、呼んでいる。

 緩々と閉じていた瞼を開くと、そこは真っ暗な空間だった。
 前後左右、どこを見回しても広がるのは闇ばかりだが、その中央には光が浮かんでいる。

 目を凝らしてじっと待っていると、その光は淡い膜を纏いながら、何かへとうつり変わっていく。やがてそれは、ひとりの人になった。

「(──私の聖女)」

 頭の中に声が響くと同時に、目に映る人の姿が鮮明になっていく。その人は胸下くらいまである黄金色の髪と優しげな碧目を持つ、とても美しい人だった。声を聞かなければ、女性だと見間違えるほどに。

 はためく白い外套の下には瞳と同じ色のローブを着ていて、左右に分けられた前髪から覗く額飾りには、菫色の石が嵌め込まれている。

 その人を、少女は知っている気がした。

「(大丈夫。貴女は私が守ります)」

 まるで陽だまりのような、懐かしさを感じた。それだけで泣きたくなるような、穏やかな気持ちだ。

(わたしを聖女と呼ぶ、あなたは──……)

 少女を聖女と呼んで、優しく微笑いかけてくる美しいこの人は、誰なのだろうか。
 答えはきっと、ひとつだけだ。

(あなたは、わたしが)

 青年の口がゆっくりと言葉を綴る。音にならないそれを、必死に目で追ったけれど、最初の一音しか読み取れなかった。

(───……?)

 青年は少女に何を伝えようとしたのだろうか。