亡国の聖女は氷帝に溺愛される

「私は貴方に、倖せになって欲しいです」

 ヴィルジールは軽く目を見張ったまま、エヴァンを見つめ返した。

 冗談や屁理屈ばかり言って、いつもふざけていたというのに、そんなふうに思ってくれていたのかと。

 だが、次の瞬間。エヴァンはもう片方の手もヴィルジールの腕に添えると、ガッシリと掴んだ。

「それから、これを機に勤務形態の見直しもお願いします。私の!」

「──は?」

「即位から十年、朝から晩まで休みなく働き、時には徹夜!そのまま朝日を浴びることもしばしば! ここ数日はルーチェ様のお陰か、残業はなくなりましたけれども! 私としては他の文官達と同様に、五日に一度休みを頂きたく──」

 思いまして、というエヴァンの続きの言葉は、ヴィルジールの迫力に呑み込まれて消えた。

「……エヴァン」

「は、はーい。シゴト、シゴトに行きましょうか……」

 エヴァンは冷気が身体を這い上がっていくのを感じながら、サササ、とヴィルジールから距離を取った。

 だが、ヴィルジールの手にいつもの氷の刃はなかった。凍てつくような眼差しも、足元に氷もない。

 ヴィルジールは怒ってはいないようだった。