亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 彼らの言い分も気持ちも分かるが、皇帝の妃というものに幸福な像をヴィルジールは抱けないのだ。

 ヴィルジールの母は他の妃に毒殺され、セシルを産んだ妃は心を病んでいた。我が子こそが皇帝に相応しい、と争っていた妃たちの姿をヴィルジールは見てきた。その中で、無関係な人間が巻き込まれ、多くの人間が死んだ。

 跡継ぎの問題は理解しているが、皇帝の妃というものは必ず不幸になる。結果を分かっていて、迎えようとは思えないのだ。

 朝議が終わり、エヴァンとその祖父であるセデンだけが残ると、ヴィルジールは胸元のタイを緩めながら立ち上がった。風に当たるためにテラスに行くと、後をついてきたエヴァンがぐぐっと伸びをしながら気持ちよさそうにしている。

「陛下。ルーチェ様を妃に迎えられてはどうです?」

「……妃はいらない」

「ルーチェ様がお傍にいるのは、嫌ではないのですね?」

 返事の代わりに頷くと、エヴァンはそれはそれは嬉しそうに笑った。何がそんなに嬉しいのだろうか。

 ヴィルジールは少し冷たい風に目を細めながら、秋の果物を頬張っていた今朝のルーチェの顔を思い返した。

 ルーチェにはイージスの聖女として、やるべきことがある。聖王を捜し、国を滅ぼした竜を封じる手立てを考え、喪われた国のために報いるという役目が。