亡国の聖女は氷帝に溺愛される

「いらん。跡継ぎはいつかセシルの子を後継に迎えればいいだろう」

「そのセシル殿下も、独身ではありませんか」

 男は片手でグッと拳を作りながらヴィルジールを見上げる。そのポーズが何を示しているのかが分からず、ヴィルジールは黙って脚を組んだ。

 男の言っていることは理解している。それは即位してから毎年必ず、誰かしらが進言していることだ。早く妃を迎え、世継ぎを──と。

「即位された時は、まだ国が落ち着いていないからと……しかしその翌年は、やるべきことがあるからと。その翌年も、そのまた翌年も、国政を理由に断られ……」

 男は涙ながらに訴え始める。同情を誘うようなその口調につられたのか、周囲の貴族たちも頷き始めた。

「もう国は平和になったのです。ヴィルジール皇帝陛下、貴方様のお陰で。飢える子供もいなくなりました。字が書けない子も今ではおりません。だからもう、そろそろ良いのではありませんか?」

「ワシもそう思いますぞ。そろそろ孫の──ゴホン、世継ぎの顔を老いぼれに見せてくだされ」

 孫の顔を、と言いかけたのはエヴァンの祖父であるセデンだった。真っ白な髭を弄りながら、穏やかに微笑んでいる。

 ヴィルジールは目を逸らし、今度は重い溜め息を吐いた。