亡国の聖女は氷帝に溺愛される

(──優しい顔、だと?)

 そんなふうに言われたのは初めてのことで。
 ヴィルジールは無表情の下で、エヴァンの言葉の意味を考えた。

 それはどんな表情なのだろうか。鏡を見ようとは思わなかったが、自分がそのような顔をしていたとしたら──それは彼女のせいだろう、と思う。

 陽だまりのように笑うルーチェを見ていると、穏やかな気持ちになって。悲しそうにしていると、その理由を探りたくなって。幸せそうにしていると、そのままでいて欲しいと願ってしまう。

 ルーチェという存在は、不思議だ。

「──皇帝陛下の御成ですッ!」

 薄水色の大理石の床に敷かれている、青色の長細いカーペットの上を突き進む。短い階段を上ると、皇帝だけが使用することを許されている玉座がある。

 ヴィルジールは青いマントを翻し、堂々たる佇まいでそれに座った。

 階段の下では国の要職に就いている貴族たちがずらりと並んでいる。その内の一人が、スッと手を挙げて前に進み出た。

「──畏れ多くも、陛下に進言させて頂いてもよろしいでしょうか」

 許す、とヴィルジールが返すと、男はおずおずと顔を上げた。

「陛下は今年で即位十年目を迎えられましたが、未だに妃が一人もおりません。跡継ぎのこともありますし、良家の娘を何人か迎えられては如何でしょうか」

 年に一度、必ず持ち上げられる縁談話に、ヴィルジールは薄らと溜め息を吐いた。