亡国の聖女は氷帝に溺愛される



 先に食堂を出たヴィルジールを出迎えたのは、すっかり目の下の隈がなくなったエヴァンだった。ここ数日定時で仕事を切り上げているからか、調子も良いようだ。
 無論、それはヴィルジールも同じなのだが。

「──おはようございます、陛下。朝食は何を?」

「それは俺ではなく料理長に聞け」

「ええー、目の前に食べた人がおりますのに。わざわざ調理場まで行けと仰るので?」

 ヴィルジールは眉を寄せた。鬱陶しい質問は年中されているので慣れっこだが、ここまでくだらないことを訊かれるとは。

「あ! でしたらルーチェ様にお尋ねすることにします。のちほど用事があるので」

「何を馬鹿なことを言っている」

「私はいつだって真面目です」

 はあ、とヴィルジールはため息を漏らした。そんなヴィルジールを見て、エヴァンは何か言いたいことがあるのか、顔を背けながら笑うのを堪えている。

「……何だ。何か言いたいことがあるのか」

「ええ。とっても」

「くだらないこと以外なら、聞いてやらないこともないが」

 エヴァンが足を止める。頭ひとつ分背が高いヴィルジールを見上げると、顔を綻ばせた。

「では、一つだけ。──ここ最近、お優しい顔をされるようになりましたね」

「誰がだ?」

「貴方ですよ、陛下」

 ヴィルジールは無表情のまま、目を瞬かせた。