亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 ルーチェの気持ちが落ち着いた頃合いを見計らって、ヴィルジールは彼女の侍女であるセルカを呼び出した。真下にある庭園に散歩でもどうかと勧めると、セルカはとんでもないものを見たような顔をしていたが、すぐに了承してルーチェを連れて下がった。

 執務机の後ろにある窓から、二人が庭園を歩く姿が見えると、ヴィルジールはルシアンにルーチェの新しい部屋を用意するよう命じた。今度は離宮でも壁一枚向こうの空間でもなく、ヴィルジールの私室と同じ階に。

 ルシアンも変な顔をしていたが、すぐに破顔した。季節は秋だというのに、春が来たなどと意味の分からないことを言って、軽い足取りで部屋を出ていった。

 ヴィルジールは首元のタイを緩め、静かに息を吐ききった。

(……聖王と竜の行方は、俺にはどうすることもできない。捜査をさせるために騎士団を編成するのは容易だが……)

 一国を滅ぼした竜の力は未知だ。騎士団を捜査に向かわせたとして、その先で竜を見つけたとして──それで終わるはずがない。彼らもまた帝国の民であり、この土地に家族がいて、帰る場所があるのだ。

 ヴィルジールは椅子に身体を預け、重い目蓋を下ろした。

(──マーズに一時帰国した、あの魔法使いに訊くべきか)

 イージスに五年いたノエルならば、ルーチェのことだけでなく、聖王や国のことにも詳しいだろう。もしかしたらあの竜のことも知っているかもしれない。

 ヴィルジールは伝書鳥を喚ぶ笛を手に取り、唇に当てた。