亡国の聖女は氷帝に溺愛される



 イージス神聖王国。今は亡き国となった聖王の名は、ファルシ。正式なものは分からないが、かの人は生きている。居場所は定かではないが、意識を向けると、彼の胸の鼓動の音が聞こえるとルーチェは言った。薄ぼんやりとではあるが、ある一点の方角から目には見えない光が差し込んでいるのが分かるとも。

 ──聖王はどこかで生きている。亡国の民が知ったら、泣いて喜ぶことだろう。ヴィルジールは紙の上でペンを走らせながら、ルーチェの話を聞いていた。

 イージスを滅ぼしたのは、オヴリヴィオ帝国の城下にも現れた竜の業火だった。その炎から民を守るために、ルーチェは強大な力を放ち、引き換えに記憶を喪った。

 魔力が枯れ果てるほどの力を使い、真っさらな地と化した場所で倒れていたところを、調査に出向いた帝国の騎士団が見つけて連行し──そしてヴィルジールと出逢ったのだ。

(──あの竜が、全ての元凶だったのか)

 ヴィルジールはペンを動かす手を止め、書類から顔を上げた。

 手を動かしながらルーチェの話を聞いていたのは、見られていたら話しづらいのではないかと思ったからだ。現に幼馴染であるエヴァンとアスラン、身の回りの世話を任せているルシアン以外の人間は、ヴィルジールが目を遣ると話しづらそうにしていた。

 ある者は目を逸らしたり、またある者は声を小さくしていったり。自分には人の気を小さくさせてしまうような何かがあるのは分かっていたが、気を遣うのが面倒だった。