亡国の聖女は氷帝に溺愛される

「……ヴィルジールさま。大丈夫ですか……?」

 そう問いかけると、肩が軽くなった。
 ヴィルジールが顔を上げたが、苦々しい表情を浮かべている。

「それは俺の台詞だ。……突然泣き出すなり、意識を失って。何度目だと思っている?」 

「に、二回目でしょうか……?」

「もっとだろう」

 ヴィルジールは重い溜め息を吐くと、ルーチェの背に添えていた手を離した。その手の動きで、ルーチェは今、とんでもない場所にいることに気がついた。

(ど、どうして私、上に……?)

 ルーチェは今、彼の執務室のソファの上にいる。正確には、ソファに座るヴィルジールの膝の上に。

 目を閉じる直前に抱きしめられていたのは覚えている。恐らくその後、意識を失ったルーチェを抱き上げ、運んだ先が──彼の膝の上、だったのだろう。

 何故ここに、と問いたいが、沸騰しそうなくらいに熱い顔が、彼の目にはどう映っているのか気になって仕方がなくて、両手で顔を覆った。

「……吐き気があるのか。それとも熱が出てきたのか」

「い、いいえ……! 違うのです」

「ならば何故、顔を隠している。今から宮廷医を呼ぶか」

「だ、大丈夫ですから……!」

 こうなったのはヴィルジールの所為だと訴えたいが、今はそれどころではない。一体どうしたものかと思ったその時、ヴィルジールがルーチェの手首を握った。