亡国の聖女は氷帝に溺愛される

「っ…………?!」

「ルーチェ!?」

 ルーチェは頭を抱えながら、膝から崩れ落ちた。
 頭が痛いわけでも、どこかが悪くなったわけでもない。目を閉じた瞬間、啖呵を切ったように、ルーチェの内側から何かがあふれ出ていったのだ。

 頭を抱えながら顔を顰めるルーチェの肩に、ヴィルジールの手が添えられる。大きくて、熱くて、ルーチェの心を乱してくるヴィルジールの不思議な手が。

「ヴィ、ヴィ……ジール、さま……」

 ルーチェは涙目になりながら、ヴィルジールの顔を見上げた。

 ヴィルジールが見たこともない顔をしながら、必死に声を上げている。ルーチェの名を呼んでは、どこか痛いのかと、どこが痛いのかと繰り返しているが、その声は遠くなっていった。

 代わりに、別の声が聞こえた。
 目の前にはヴィルジールがいるというのに、彼ではない別の人間の声が聞こえてくるのだ。

「(────)」

 ルーチェはヴィルジールを見つめながら、ほろほろと涙を落とした。

「(────か)」

 ルーチェ、とヴィルジールの唇が動いている。何度も、何度も。目の前の世界の音を拾わなくなってしまった、ルーチェの耳に触れながら。

(──ああ、わたしは……)

 ルーチェは堰が切れたように涙をこぼし続ける両目を閉じた。

 そうして訪れた瞼の裏側で、ぽつりと光が灯り、より声が鮮明になる。

 目を醒ました時から、どこか遠くから聞こえていたような気がした声だったが、ヴィルジールに問われた時にそれは明確なものへと変わった。

 そして、ルーチェは嘘をついたのだ。自分を喚ぶ声は聞こえていたというのに、分からない、と。

(──どうしてわたし、うそをついたのかしら)

 両肩にあった熱が、全身へと広がる。どうやらヴィルジールに抱きすくめられているようだ。気づけば怯えにも似た震えが止まっている。

「(──私の声が聞こえるかい?)」

 ヴィルジールの腕の中で、ルーチェは首を縦に振った。