ヴィルジールが持ってきてくれたお粥を食べ終えた後、ルーチェは彼に連れられるがままに隣の執務室へと移動した。

 黒塗りの執務机と本棚が三つ、大きなソファしかないが、不思議と落ち着く場所だった。窓が少しだけ開けられているのか、濃い青色のカーテンが静かに揺れ、角に立て掛けられている剣は太陽の光を受けて煌めいている。ソファで仮眠を取っていたのか、端に毛布が一枚掛けられていた。

「ここがヴィルジールさまの執務室、なのですね」

「ああ。……前にそこのソファに置いて行ったことがあるが、覚えていないか」

「……ソファに、ですか?」

 入り口と執務机の間には長ソファがある。ルーチェが寝そべってもすっぽりと収まってしまいそうなくらいに大きい。

 ルーチェは近づいて触れてみた。このソファに見覚えはないが、ヴィルジールと偶然中庭で会い、その後目が覚めたらソファの上だった……という出来事は覚えている。

(……確かあの日、ヴィルジールさまが具合を悪そうに戻っていらして……)

 ルーチェはソファの革を撫でながら、あの日のことを──セシルと出逢い、眠るヴィルジールの手を取り、力を使った時のことを思い返した。

 ヴィルジールの具合が悪くなったのは、レイチェルという聖女と対面したからだと聞いている。イージスの聖女を名乗っていた彼女が何者なのか、結局よく分からないまま、彼女はルーチェを襲うなり何処へと消えた。