髪と身体を洗われ、柔らかいタオルそのもののような服に袖を通したルーチェは、セルカに髪を乾かしてもらっていた。

 梳いてもらい、水気のなくなった髪に鼻を近づけると、やはり記憶にある匂いがする。

(……このにおい、ヴィルジールさまと同じだわ)

 甘すぎない花のような、青い果実のような。彼の上着や、抱き止めてもらった時に香ったものと同じだ。

 彼が使っている浴室を使わせてもらったのだから、同じ香りがするのは当然だが、恥ずかしいような、くすぐったいような気持ちで、胸の中から何かがこぼれそうだった。


 髪を乾かし終えた後は、肌触りのよいシンプルなワンピースに着替え、元物置部屋ことルーチェが寝ていた部屋に戻った。

 中に入ると、コック帽を被った男性が深々と頭を下げながら、入れ替わるように部屋を出ていく。

 いつの間に運んでいたのか、ヴィルジールがお盆を手に椅子に座っていた。

「戻ったか」
「は、はい……。あの、ヴィルジールさま」
「話は後だ。今はこれを食え」

 ルーチェは小さく頷いてから、ベッドサイドに腰を下ろした。

 ヴィルジールが持つお盆の上には、白い深皿が乗っている。立ち上る湯気からは、薬のような匂いがした。

「スプーンは持てるか?」

「も、持てます……!」

 ヴィルジールは「そうか」と零すと、お盆を持ったままルーチェの隣に座り、木のスプーンを右手に握らせた。その拍子に少しだけ触れたヴィルジールの指先は、今日は熱く感じられた。