ふ、と。ヴィルジールの唇の端が少しだけ上がる。 

 彼は安堵したように息を吐くと、ベッドから立ち上がってポケットに手を突っ込んだ。

「腹は減っていないか」
「ええと……はい」

 ルーチェはお腹に手を当てながら小さく頷いた。どれくらいの間眠っていたのか分からないが、お腹は空いている。

「すぐに用意させる。少し待っていろ」

 ヴィルジールはルーチェを一瞥してから、早足で部屋を出て行った。

 入れ替わるように現れたのはセルカだった。ルーチェの体調を気遣う言葉を掛けると、ふらつくルーチェを支えながら、少し歩いたところにある浴室に連れて行ってくれた。

 だが、扉を開けた先の景色を見て、ルーチェは固まっていた。

「ここは陛下専用の浴室にございます」
「……え?」
「お部屋から一番近いのでこちらを使うように、と」
「……ええ、と……」

 困惑するルーチェを余所に、セルカが素早く服を脱がせていく。広いバスタブに張られているお湯は青く、嗅いだことのある匂いがして、ルーチェはくらくらしそうになった。