「ここはお城でしょうか?」

 ルーチェの問いに、ヴィルジールは頷いた。

「俺の部屋の隣だ。物置部屋だが」

 ルーチェは目を瞬かせながら、部屋を見回した。室内にはルーチェがいるベッドと小さなテーブルしかない。どこが物置部屋なのだろうか。

「隣の物置部屋……」

「様子を見に行くのに、遠いと不便だろう」

 ルーチェは首を傾げた。ヴィルジールが自らルーチェを訪ねてきてくれた時は、いずれも客間だった。客間は城の中心地である居館ではなく、ソレイユ宮のようにややはずれた場所にある。

 対して、ヴィルジールの私室は彼の執務室の真上だ。馬車で十分と、壁一枚隔てた向こう。この距離の差はなんだろうか。

(それに、今の言い方だと……)

 ルーチェは手元のグラスから、ヴィルジールへと視線を移した。

 艶やかな銀髪は爽やかにセットされ、胸元のタイはきちんと結ばれている。これから仕事に向かうのか、抜け出してきたのかは分からないが、ルーチェを見つめる眼差しにいつもの鋭さはなかった。

 様子を見にきたら、ちょうどルーチェが目を覚ましたので、驚いていた──というところだろうか。