まぶたを開けると、驚いた顔をしているヴィルジールが、ルーチェを見下ろしていた。

「…………」
「……ヴィ……ジール、さま?」

 目と目が合ってから、ほんの数十秒。たったのそれだけでもとても長く感じられたルーチェは、耐えかねたように口を開いていた。

 声は掠れていた。上半身を起こしたルーチェは、どうしてヴィルジールが傍にいるのかと尋ねようとしたが、声は喉元を越えず、咳が出てしまった。

 咳き込むルーチェの背に、ヴィルジールの手が添えられる。そっと摩る手つきは優しく、温かかった。

「……身体は」 

 咳が止むと、ヴィルジールはルーチェがいるベッドに浅く腰掛け、手を伸ばしてきた。

 大きくて広い手がルーチェの額に当てられる。いつかルーチェがそうしたように、熱の有無を確かめているのだろう。分かってはいても、鼓動が跳ねた。

「大丈夫、です」
「そうか」

 ヴィルジールはルーチェから手を離すと、ベッドサイドにある小さなテーブルに手を伸ばし、透明なポットと取手付きのグラスを手に取った。慣れた手つきで水を注ぎ、ルーチェの手に持たせる。

 ルーチェは手渡された水をゆっくりと飲んでから、深く息を吐いた。