亡国の聖女は氷帝に溺愛される

「街に行きたいのです」

「何をしに?」

「イージスの民に、逢いに」

「そうですか。ならばここを通って、行かれるといい」

 男性の言葉に、周囲の騎士たちが反対の声を上げる。せっかく捕まえたのに、と興奮気味に言う者や、皇帝陛下の許可なく外に出すなんて、と不安げに言う者もいた。

 だが男性は視線一つで彼らを黙らせると、翠色の瞳を真っ直ぐに少女へ向ける。

「どうぞお好きに。自ら殺されに行こうとしている聖女様を止める権利はないからな」

「アスラン様ッ!!」

 彼の後方で黙って見ていた騎士の一人が叫んだものは、彼の名前なのだろうか。

 アスランの手は何の躊躇いもなく装置へと伸び、レバーを掴むと勢いよく下へ引いた。すると、鉄製の門が左右にゆっくりと開かれていく。

 少女は前へ踏み出す前に、アスランの顔を見上げた。

「ありがとうございます」

「死を早めた私にお礼を申されるとは。さすがは国を滅ぼした聖女様だな」

 アスランは眉を跳ね上げ、皮肉めいた笑みを浮かべる。

 少女はアスランに向かってぎこちなく微笑むと、オヴリヴィオ式でない敬礼をしてから、城の外へ身を投じた。