亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 カーテンの隙間から差し込む陽光が、ルーチェの顔を照りつけている。その光は囚われたように扉を見つめているヴィルジールの影も伸ばしていた。

 ノエルが消えた扉から、足元の影へ。そして眠り続けるルーチェを振り返り、ヴィルジールは眩しげに目を細めた。

 ルーチェの白い肌が日に焼けないよう、カーテンを隙間なく閉め、静かに息を吐ききる。
 暗くなった部屋では、時を刻む針の音が一層聞こえた。

(……なぜ、か)

 ヴィルジールは眠るルーチェを見下ろしながら、先ほどノエルに言われたことを思い返した。

 名を贈ったのは、皇帝の命を救っておきながら、何の見返りも求めてこなかったからだ。そんな人間にドレスや宝石を与えたところで、喜びやしないだろうと。

 そしてもう一つ。国を滅ぼし、王をも亡き者にしたかもしれない存在であり、奇跡の光で人命を救った彼女を城の外に放り出すわけにもいかなかった。だから監視も兼ねて住まいを与え、イージスに滞在していた経歴を持つ魔法使いを呼び寄せ、まことにイージス神聖王国の聖女なのかを確かめたのだが。

 そんなヴィルジールの思惑に、ルーチェは気づかず。それどころか花が開くように笑い、そして涙をこぼしていた。

 その姿から、目が離せなくなったのだ。だから彼女をイージスの聖女としてではなく、何もかもを失ってしまったひとりの少女──ルーチェとして見て、知ろうと思った。