亡国の聖女は氷帝に溺愛される

「そうだね、確かにあんたは結界を調べてこいと僕に言った。でもその前に、僕と聖女を引き合わせ、イージスについて尋ねてきたよね」

「それがどうした」

「どうしたじゃないでしょ」

 ノエルはルーチェから手を離し、ヴィルジールとの距離を詰める。最低限の食事はしていたようだが、充分な睡眠は取っていないのか顔色は悪く、目の下には隈ができている。そうまでして調べ物を続けている理由が、ノエルは知りたいのだ。

「あんたは知りたいから聞いたんだよ。聖女のために」

 ヴィルジールは何も言わずに目を逸らした。逃げるように立ち上がると、ノエルに背を向ける。だが俯く先にはベッドに横たわるルーチェの姿がある。
 ノエルはその姿を見て、どうしようもなく苛立った。

「空っぽになった聖女に名前をあげたのはどうして? 住まいを与えたのはなんで? 街並みを見せた理由は?」

 弾かれたようにヴィルジールは振り向いた。
 限られたごく少数の人間しか知り得ないことを、ノエルは知っている。そして問いかけてきている。ヴィルジールがひとつも躊躇わずに差し出した理由を。

「助けに行ったのはどうして? 仕事を放り出してまで付き添ってるのはなんで?」

 ヴィルジールはきつく眉を寄せる。ノエルの碧色の瞳を見つめたまま、ごくりと唾を飲み干して。
 そうして、声を絞り出した。

「……分からない」

「分からないんだ。じゃあ自分の胸に問いかけながら、鏡を見てみるといいよ」

 ノエルは吐き捨てるようにそう言うと、この国に来た時に着ていた赤いローブを翻し、部屋を出て行った。

 扉の外で、ノエルは重苦しい溜め息を吐いた。

「心配で堪らないって顔してるのに、分かんないって……馬鹿でしょ」

 気持ちを鎮めるようにゆっくりと息を吐いてから、ノエルは顔を上げる。そして指先で美しい魔法陣を描くと、その上に乗り、瞬く間に姿を消した。