亡国の聖女は氷帝に溺愛される



 紐を解くように、ヴィルジールは本のページを捲っていた。今手にしている本で十一冊目になるが、欲しい情報はまだ得られていない。

 十二冊目に手を伸ばすか否か、集中力を保つために一杯飲むか悩んだその時、部屋の扉が開いた。現れたのはノエルだ。

「うわ、まだ読んでたの?」

「何か問題があるのか」

「問題だらけだと思うけど。宰相さんがヒイヒイ言いながら仕事してるよ」

「問題ない。玉璽は預けてきた」

 皇帝が玉璽を宰相に預──いや押し付け、読書に耽るとは何事だろうか。ノエルは苦笑をしながら、ヴィルジールに近づく。

「……聖女の具合は?」

「眠っている」

 ヴィルジールは開きかけた本を閉じ、深く息を吐いた。

 ふたりは今、ルーチェが眠っている部屋にいる。意識を失ったルーチェをここに運び込んでから、ヴィルジールは彼女が眠るベッドの傍らでひたすら本を読んでいた。

「……そっか」

 ノエルは積まれている本を一冊手に取ると、ぺらぺらとページを捲る。これはイージス神聖王国に関する文献だが、ヴィルジールが今手に取っているのはオヴリヴィオ帝国の歴史のようだ。聖女ソレイユと初代皇帝ヴィセルクについて調べているのだろうか。