亡国の聖女は氷帝に溺愛される



『──君が私の聖女かい?』

 春風のような声に誘われるように、──はまぶたを持ち上げた。

 視界いっぱいに映ったのは、黄金色の髪を靡かせているとても美しい人だった。肌は透けるように白く、唇は薄く、瞳は碧く、彼の全てが美しくて息が漏れてしまう。

『あなたはだあれ?』

 そう問うた──に、彼は驚いたように目を見張ると、小さく笑ってから手を差し出してきた。

『おや、私が分からないかい?』

『ええ、ちっとも。それよりここはどこなの? 私は父さんと母さんと一緒に、森にいたはずなのに……』

 ──は彼の手を取らずに、辺りをきょろきょろと見回した。

 どうやら寝転んでいたようだ。目の前にいる美しい少年は──を迎えにきたのか、彼の後方には不思議な衣装を着ている人がたくさん居た。誰もがヴェールを被り、額飾りを着けている。

『聖王様。早く聖女様を神殿へ』

『分かっている。だが彼女は無理やり連れてこられ、困惑しているようだ。私が連れて行くから、君たちは先に戻っていてくれ』

『しかし、聖女様は……』

 セイジョ、セイオウ、シンデン。知らない言葉に首を傾げていた──だったが、彼の後ろにいる人のひとりが縄を取り出したのを見て、反射的にその場から駆け出していた。

『──!聖女様が!』

 逃げる──と、目を見開く黄金色の髪の美しい少年、そして彼を取り巻く白いローブを着た集団。
 ここは何処で、彼らは何者なのだろうか。