亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 初めて踏んだオヴリヴィオ帝国の道は硬かった。寒々とした色合いの石で整備され、それは見渡す限り続いている。
 静かに息づいている花々を横目に、少女は駆け足で城門へと向かった。

(──イージスの、民)

 セルカが言っていたそれは、滅んだ国の名前なのだろう。このオヴリヴィオ帝国の隣にはイージスという名の国があり、きっと、その聖女が自分だったのだ。

 聖女と聖王の関係は分からない。だが、聖女は稀有な力を持った存在のようだったから、関わりがあったのは確かだ。

(──わたしは、なにをしたの)

 城門の前には二桁近い数の騎士がいた。少女の存在に気づくと、剣を抜く者もいれば驚いて固まる者もいたが、近寄ってくる者は誰一人としていなかった。

 少女は肩で息をしながら鉄製の門を見上げる。これはどうやったら開くのだろうか。たとえ誰かに肩車をしてもらったとしても、よじ登れる高さではない。

「──何処へ行かれる?」

 立ち尽くす少女に声を掛けたのは、ダークブルーの髪の男性だった。急いで駆けつけたのか、前髪を大きく分けたミドルヘアが少し乱れている。

 騎士たちは避けるようにして道を空け、男性は作られた道を真っ直ぐに突き進み、少女の目の前で足を止めた。

 胸元に飾られている黄金の翼の紋章が、光を受けて煌めていている。他の騎士にはないそれは、彼が騎士たちの上官である証だろう。