亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 ヴィルジールとノエル、ぐったりしているルーチェとソレイユの四人だけになると、ソレイユが赤い唇を開いた。

『わたくしの声は、聖者にしか聞こえません。その魔法使いには届いているようですが』

 聖者という単語に、ヴィルジールは眉を寄せる。それは何だとでも言いたげに。

「祝福を……加護を頂いた人間が、少しだけ聖者の力を使えるのは知ってるけど。氷帝も聖者だったの? ていうかその女の人は誰?」

「聖女ソレイユだ」

 ノエルは「ええ?!」と素っ頓狂な声を上げる。
 ソレイユはノエルに優しく笑いかけると、ヴィルジールと向き直り、その腕に抱かれているルーチェを見下ろした。

『長い間、ずっと待っていたのです。この地の王とわたくしの魂が、再び巡り逢う日を』

 この地の王──それ即ち、オヴリヴィオ帝国の皇帝のことだろう。ソレイユが祖先と盟約を交わしたという伝説は、王族ならば誰もが知っていることだ。

 今の皇帝はヴィルジールだが、その前にも何十人と居たというのに。彼女の声が届いたのは、ヴィルジールだけなのだろうか。だとしたら、それは何故なのだろうか。

 ソレイユは美しい微笑みを飾ると、ルーチェの頬に触れた。

『この子はわたくしであり、わたくしはこの子なのです』

「生まれ変わりだとでも言いたいのか」

『それに近いでしょう。今のわたくしは、残留思念のようなものです』

 ソレイユが纏う光が、じりじりと弱くなっていく。