亡国の聖女は氷帝に溺愛される

「……手短にしろ。早く医者に診せたい」

『そんなものにどうこうできる問題ではありません』

「怪我や病気でないと言いたいのか?」

 ヴィルジールの質問に答えるかのように、小さな光の玉が眩しく発色する。そして、さらに大きく光ったかと思えば、その輝きの中から、夢で会った時と同じ姿のソレイユが現れた。

「……ねぇ氷帝。その人、誰?」

 訝しげな顔をしているノエルが、透けているソレイユを見て目を丸くさせている。だが他の人間には彼女の姿が見えていないのか、エヴァンは瞬きを繰り返し、アスランは硬直している。

「そこに何かいるのですか?」

「おいエヴァン、馬鹿なことを言うな!いるわけないだろう!」

「いやだって、陛下とノエル様には見えているようではありませんか。喋ってますし。もしかしてオバ──」

「うわああああ!」

 突然叫び声を上げたかと思えば、顔面蒼白になったアスランが倒れた。どんなに凶暴な獣が現れようと、冷静沈着に討伐してきた騎士だというのに。

「やれやれ、アスランは。こんなことで失神するとは」

「お前たちには見えていないのか?」

「ええ、全く。なーんにも見えませんし、聞こえませんよ。陛下が独り言を言うなんて、明日は大嵐かなあって思うくらい」

 よいしょ、とエヴァンはアスランの肩を担ぐ。

「では陛下、私はお先に。あ、セルカ殿も行きましょう」

 ヴィルジールが頷くと、エヴァンはアスランとセルカを連れて歩き出した。