亡国の聖女は氷帝に溺愛される



 細い身体が腕に沈む。初めは傾いたところを引き寄せ、支えていただけだったが、糸が切れたように動かなくなった。

 突然意識を失ったルーチェを抱き止めるヴィルジールの手に、じりじりと力が籠る。本人は無意識のうちにやっていたようだが、エヴァンだけは気づいていた。

「陛下。とりあえずここを出ましょう。今にも崩れそうです」

 ヴィルジールの肩にエヴァンの手が添えられる。間にいるアスランは剣を収め、崩れつつある天井を見上げた。

「おい、ジル。早く出るぞ」

「……外に出たら、至急宮廷医の手配をしろ」

「こんな夜中に呼びつけるなんて、嫌な雇い主ですねぇ」

 エヴァンは笑いながらも、一同を先導するように駆け出した。その後にはルーチェを抱き上げたヴィルジール、セルカ、アスラン、ノエルと続き、崩壊していくソレイユ宮から脱出したのだった。
 

 全員がソレイユ宮の外に出て、崩れていく建物を振り返った時。

 どこからともなく小さな光が現れ、ヴィルジールの前で止まった。

「……なんだ?」

『わたくしです。王の子よ』

 つい最近聞いたばかりの声に、ヴィルジールは眉を跳ね上げる。彼女には訊きたいことがいくつもあるが、ヴィルジールは今、意識を失ったルーチェを抱いている。