「セルカさん……!お怪我はありませんか?」

「ございません。ルーチェ様は……傷が」

 セルカが痛ましげな顔をしながら、ルーチェの腕にそっと触れる。どこかで切ったのか、膝の下から少しだけ血が出ていた。

「それで、例の聖女はどこだ?」

 アスランが剣を抜いて、ヴィルジールの隣に並び立つ。

「上だ」

 ヴィルジールの声で、全員が顔を上げる。ルーチェとノエルが落ちてきた天井穴から、悍ましい空気を纏うレイチェルがゆっくりと下降してきていた。

「ねぇ、どうして?」

 レイチェルの目がルーチェへと向けられる。菫色だった彼女の瞳は今は真っ赤に染まっていた。

「貴女にはあの方がいるのに、他の男の手を取ったのはどうして?」

「え……?」

 レイチェルの問いかけに、ルーチェはごくりと喉を鳴らす。

 あの方とは、誰のことだろうか。他の男とは──ヴィルジールのことだろうか。だが彼はルーチェが起き上がるのを助けてくれただけで、ルーチェもその優しさに甘えただけだ。

 この世の全てに絶望したような、感情のないレイチェルの眼差しがルーチェへと注がれている。その間に、まわりの壁や天井ががらがらと崩れ、嫌な音を響かせていた。