落ちたルーチェを受け止めたのは、さらさらとした感触の雪だった。冷たいはずのそれは、春の夜のようにほんの少しひんやりとするだけで、不思議と寒さを感じない。

「──怪我は?」

 ヴィルジールがルーチェへと手を差し出す。
 ルーチェは首を左右に振ってから、ヴィルジールの手に自分の手を乗せた。大きくて温かい手がルーチェの手を握り返し、力強く引き上げる。

「ちょっと、僕のことは無視?」

 すぐ後ろで、共に落ちたノエルが不服そうな顔で、服に付着した雪を払い落としている。

 ルーチェは羽織っていたブランケットをタオル代わりにと差し出そうとしたが、ヴィルジールに止められてしまった。彼はそのままルーチェを背に隠すようにして進み立つ。

「自業自得だろう」

「仕方ないじゃん。相手が悪かったんだから」

 ノエルは頬を膨らませながら、ヴィルジールを睨んでいる。その姿はルーチェと話す時よりも随分幼く見え、こんな状況だというのに微笑ましく思えてしまった。
 そこへ、慌ただしい足音が近づいてくる。

「──陛下ーー!!」

 振り返ると、エヴァンが駆けてくるのが見えた。彼の後ろにはアスランとセルカの姿もある。

「ジル!!」
「ルーチェ様!」

 ルーチェはセルカの傍に駆け寄り、無事を確かめ合った。セルカもルーチェと同じく部屋で休んでいたのか、使用人の制服ではなく寝間着姿だ。