この時を待っていたのか、または狙っていたのか。ノエルが身を翻し、両手を広げてルーチェを抱きしめる。
ノエルの背中越しに見たレイチェルは、ふたつの目から涙を落としながら、恐ろしい叫び声を上げた。
人ではない、悍ましい声が響き渡る。耳を劈くような音で頭が割れそうになったが、ノエルがルーチェの片耳に触れた瞬間、ルーチェの耳から一切の音が消えた。
建物が揺れ、壁が崩れ、身体がぐらりと傾く。床が抜け落ちたのだと気づいた時にはもう、目の先には硬い石の床があった。
(お、落ちるっ……!)
ルーチェを抱きしめるノエルの腕が強まる。
「──くそっ、あの女っ……」
「ノ、ノエルさっ──」
悔しげな顔をするノエルと、見慣れた床を交互に見てから、ルーチェはぎゅっと目を瞑った。
どうか植えたばかりのウィンクルムの種が、傷つけられませんようにと。そう願って、身体に力を入れたのだが──。
「──約束の合図はどうした? 魔法使い」
いるはずのない声がして、ルーチェは目を開ける。
目蓋の向こうには、震えるほどの冷気をまとうヴィルジールが、怒りを露わにして佇んでいた。
そしてルーチェの身体は、真っさらで柔らかい雪の上に落っこちた。
ノエルの背中越しに見たレイチェルは、ふたつの目から涙を落としながら、恐ろしい叫び声を上げた。
人ではない、悍ましい声が響き渡る。耳を劈くような音で頭が割れそうになったが、ノエルがルーチェの片耳に触れた瞬間、ルーチェの耳から一切の音が消えた。
建物が揺れ、壁が崩れ、身体がぐらりと傾く。床が抜け落ちたのだと気づいた時にはもう、目の先には硬い石の床があった。
(お、落ちるっ……!)
ルーチェを抱きしめるノエルの腕が強まる。
「──くそっ、あの女っ……」
「ノ、ノエルさっ──」
悔しげな顔をするノエルと、見慣れた床を交互に見てから、ルーチェはぎゅっと目を瞑った。
どうか植えたばかりのウィンクルムの種が、傷つけられませんようにと。そう願って、身体に力を入れたのだが──。
「──約束の合図はどうした? 魔法使い」
いるはずのない声がして、ルーチェは目を開ける。
目蓋の向こうには、震えるほどの冷気をまとうヴィルジールが、怒りを露わにして佇んでいた。
そしてルーチェの身体は、真っさらで柔らかい雪の上に落っこちた。


