亡国の聖女は氷帝に溺愛される



 謁見の間で皇帝と顔を合わせ、テラスで少しばかりの話を終えた後、少女は元居た部屋に戻された。中に入るとセルカが手を前で重ねて立っており、扉が閉まると同時に頭を下げてきた。

「おかえりなさいませ」

「……戻りました」

 部屋に入ったはいいものの、そこからどうすればいいのかわからなかった少女は、助けを求めるようにセルカを見る。

 セルカは察してくれたのか、無表情のまま一度だけ頷くと、先導するように歩き出した。その後ろをついて行くと、化粧台の前にある椅子に座るよう促された。
 少女は大人しく座り、鏡に映る自分の姿を眺めた。

 鏡越しに見る自分の顔を、これが自分なのだと思うことはできなかった。まるで他人の顔を眺めているようだ。顔も名前も知らない赤の他人を、初めて見た時のような、そんな気持ちで。

 そこに興味は湧かない。幸薄そうな白い顔と薄い蜂蜜色の髪を見て、少女は瞼を下ろした。

「見事な黄金(こがね)色の御髪(おぐし)にございますね」

 セルカが髪を梳く感触がして、目を開ける。
 鏡越しに映るセルカは、壊れ物を扱うかのように、丁寧に少女の髪を梳いてくれていた。

「私はそうは見えないのですが」

「光の束を集めたようで、とても美しいです」

 髪を見つめるセルカの眼差しは、さっき会った時よりも少しだけ柔らかくなっているような気がした。