「ルーチェ様ー!陛下に何かされてはおりませんかあ〜!?」

「……!?」

 エヴァンの大きな声が廊下に響き渡る。
 セシルは瞠目し、ルーチェは反射的に半歩足を引いていた。

(な、何かって……!)

 エヴァンとアスランがこちらに向かって歩いてくる。

 頬が熱を持っているような気がして、ルーチェは頬っぺたに触れた。やはり熱くなっている。

「なんだ、ジルの奴……国中のどんな女にも興味を示さなかったのに」

「夜這いに来た、さるご令嬢を凍らせてましたしねぇ」

「仕事が恋人だとか言ってたな」

 エヴァンがルーチェを見ては、楽しそうに語り出す。それに乗るように、アスランも同調するように頷いている。

「勇気を出してダンスを申し込んだ女性に、一人で踊っとけ、と突き放していましたね」

 今度はセシルが愉しそうに笑った。どれもこれもヴィルジールが過去に女性に対してやってしまったことだというのは分かったが、何故それをルーチェに聞かせるように話しているのだろうか。

「あ、セシル様。どなたの手も取らなかった陛下ですが、式典の日にルーチェ様と踊られたのですよ。自ら選んだドレスを贈って!」

「……あの兄上が」

 三人の視線が、一斉にルーチェへ向けられる。
 ルーチェは堪らなくなって、その場から逃げ出した。