大事をとって休んでもらうために、ルーチェはヴィルジールをベッドに戻してから寝室を出た。

 廊下に戻ると、セシルが壁に背を預けて立っていた。

「……セシル様?」

 セシルは立ったまま寝ていたのか、ルーチェの声で弾かれように顔を上げた。

「ルーチェ様! 兄上の様子はいかがでしたか?」

「目を覚まされましたよ。少しだけ、お話も」

 見舞ってはどうかとセシルに勧めたが、彼はやんわりと首を左右に振った。

「ゆっくりと休んで頂きたいので、また後日お伺いいたします。兄上は昔から仕事ばっかりで、倒れるまで働いていたので」

 ルーチェは苦笑を零した。

「ヴィルジールさまらしいですね。……でも先日、夜更けにお散歩されていましたよ。気分転換のようでした」

「散歩?兄上がですか?」

 セシルは信じられないとでも言いたげな顔をして、ヴィルジールの寝室の扉を見つめる。頷くルーチェと交互に見た後、ほっとしたように頬を緩めた。

「そうでしたか。しばらくお会いしないうちに、随分と変わられたようで」

 歩き出したセシルの隣に並び、階段を下りる。下りたところで左右を見ると、執務室の前でアスランといるエヴァンが手を振ってきた。