「……それは悪かった」

 ぽん、とルーチェの頭に大きな手が乗る。つい先ほどまで繋いでいた右手だ。

(……ヴィルジールさまの、ばか)

 急に触れてきたかと思えば、びっくりするくらい近くに顔があって。今度は笑って、また近づいて、ルーチェに触れた。
 ヴィルジールのせいで、気持ちがぐちゃぐちゃだ。

「機嫌を直してくれないか」

「別に悪くしてはおりません」

「ならどうしてそっぽを向いている」

「左を向きたい気分なのです……!」

 ヴィルジールが真摯な目で見つめてくるので、ルーチェは顔ごと逸らしていた。今目を合わせたら、どうにかなってしまいそうだったからだ。

「……ルーチェ」

 ヴィルジールがゆっくりと腰を上げる。手を差し伸べてくるのが視界の端に映ったが、ルーチェはぷいっと横を向いたまま、膝を抱えて座り込んだ。

 自分でも、どうしてこんなことをしているのかは分からない。だけど、くすぐったい気持ちで胸が膨れ上がって、このままでは破裂してしまいそうなことだけは分かっていた。

「……ケーキが、食べたいです」

 誤魔化すように吐いた小さな声に、ヴィルジールがはっきりと頷く。

「ならばまた一緒に食事をしよう」

 思いがけない提案に、ルーチェは息を呑み、ヴィルジールを見上げた。