ヴィルジールが笑った。これまでで一番柔らかく、あたたかく、とても優しく。初めて見るその表情に、ルーチェの目は釘付けだ。

 深い青色の美しい瞳に、口をぱくぱくとさせている自分が映っている。よく考えてみたらとんでもなく近い距離だ。高鳴る心臓の音が、彼の耳に届いてしまうかもしれない。

 ルーチェは慌てて距離を取り、両手で顔を覆った。

「ルーチェ?」

 ヴィルジールがベッドを降りて、ルーチェの元へと歩いてくる。

 庭で会った時のように、ルーチェは必死に後ろに下がったが、背中が壁にぶつかってしまった。行き止まりだ。

 歩み寄ってきたヴィルジールが、ルーチェの目の前で膝をついた。

「なぜ逃げる」

「そ、それは……ヴィルジールさまが」

「俺が?」

 ぐっと近づいたヴィルジールの顔が、ルーチェの顔を至近距離で覗き込む。指の隙間から覗くと、思いきり目が合ってしまった。

 ルーチェは顔を赤く染めながら、精一杯の声を張り上げる。

「ヴィルジールさまが、心臓に悪いことをなさるからです……!」

 言い終えた後、ルーチェは肩を上下させながら、恨めしげな目でヴィルジールを見上げた。

 ルーチェの言葉の意味が分かったのか、ヴィルジールの眉が少しだけ下がる。