「力の使い方を、ノエルさんに教わったのです。そのために」

「触れれば使えるのか?」

「いいえ。触れて、その相手を想い、光を求めるのだそうです。……以前にも、同じことをヴィルジールさまにいたしました」

 マーズの大魔法使いであるノエルは、イージス神聖王国に数年滞在していた経歴がある。ルーチェのことをよく知るノエルならば、記憶を取り戻す手伝いが出来ると思い、他の理由をこじつけて国に招いたのだが。

 どうやらその甲斐があったようだ。

「俺にも使えるか」

「分かりません。この力は魔法ではないのです」

 ルーチェは語った。聖女の力というのは、マーズでは聖者の力と呼ばれていること、魔力を失った自分でも使えるとノエルに教えてもらったこと。それから具体的な方法を、恥ずかしそうに──けれども嬉しそうに語ると、笑顔をこぼした。

 触れて、その相手を思い、光を求める。

 聖女でもなければ、聖者とやらでもないヴィルジールにも、出来るだろうか。

 ヴィルジールはルーチェの頭の後ろに手を添え、自分の顔を近づけ、ルーチェと額を合わせた。

 ルーチェがひゅっと息を呑む。これでもかというくらいに、目を大きくさせている。

「……心の中で名を呼んでみたが、何も起こらないな」

「……っ、ヴィ、ヴィルジール、さま……」

 声にならない悲鳴を上げるルーチェの吐息が、ヴィルジールの鼻を掠める。

 菫色の瞳は泣きそうに揺れていたが、顔は茹でたもののように真っ赤に染まっていた。

 ヴィルジールは微笑った。ルーチェがくれた優しい光を呼び起こすことは出来なかったけれど、見たこともない顔をさせることが出来たのだ。

 今度は左胸に、熱が灯るのを感じた。