色々なことを考えていると、急に右手を握る指先がぴくりと動いた。どうやらルーチェが目を覚ましたようだ。

 ルーチェはゆっくりと顔を上げると、真っ先にヴィルジールの顔を見つめた。そして、大きな丸い瞳をさらに大きくさせた。

「……ヴィルジールさまっ!」

「何だ」

「何だじゃありません。心配したのですよ」

 ルーチェは怒ったような口調だったが、その目元はほっとしたように和ませていた。

「悪かったな」

 ヴィルジールは室内をぐるりと見回した。こういう時、真っ先に引っ付いてくるエヴァンの姿が見えない。心配性な弟の姿もなく、どうやら今はルーチェとふたりきりのようだ。

「……あ……」

 ルーチェが右手に視線を落とし、顔を赤くさせたり青くさせたりしている。するりと抜けそうになったルーチェの手を掴み、もう一度握り直すと、ルーチェがぱっと顔を上げた。

「ヴィルジールさま?」

 潤む菫色の瞳に映る自分は、そんな表情をすることも出来たのかと問いたくなるくらいに、不思議な顔をしていた。

「ずっと、握っていたのか」

 ルーチェは恥ずかしそうに顔を俯かせてから、こくっと小さく頷いた。