亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 ソレイユという名に、ヴィルジールは眉を跳ね上げた。

 その名を知らぬ王族はいない。ソレイユという名は、何百年も昔にオヴリヴィオ帝国に現れ、祖先と約束をしたという聖女の名だ。

「祖先が会ったという聖女か」

 ソレイユは笑って頷くと、一度だけ後ろを振り返った。迫り来る何かとの距離を確認し、思わしくない結果だったのか──美しい顔が苦しそうに歪む。

『時間がないので、要件だけ伝えます。今すぐあの聖女をこの地から遠ざけなさい』

 ヴィルジールの頭に、二人の顔が浮かぶ。陽だまりのように笑う少女と、造りもののような少女のふたりが。

「あの聖女とはどちらだ?」

『わたくしは彼女たちの名を知りません』

「……それではどちらなのか分からないんだが」

 ソレイユは困ったように微笑んでいたが、何かを見つけたのか、ヴィルジールの右手を見遣った。

『貴方を想い、光を灯した者がまことの聖女です』

 ヴィルジールは右手を見つめた。

 右手に灯る熱は、まだ失われてはいない。夜空に聳える月のように、優しく寄り添ってくれている。

 あたたかなその光からは、優しい気持ちが伝わってくる。雨上がりの空のように、初めて流れ星を見た時のように、世界が煌めいていることを伝えてくるかのように、ずっと。