亡国の聖女は氷帝に溺愛される

「そんなことは……ないと思うのですが」

 イージスの聖女が自分であることは、ノエルが断言している。複数人いるなんて記述は本で見たこともないし、ノエルの口から出てもいない。
 だが、ルーチェは記憶を失っている。

「ごめんなさい、私には以前の記憶がないのです。目を覚ました時から、この城におりました」

「そう……でしたか。ですが先ほど兄上を包んでいた光は、貴女が起こしたものですよね?」

 光というのは、ノエルから教わった聖者の力のことだろう。触れて、その人を想い、光を求める。その祈りが聞き届けられ、力が発動した。

 ルーチェが頷くと、セシルは花開くような笑みを飾った。

「とても……とても神秘的で、それでいて優しい光でした。兄上も穏やかな顔をされていた」

 ありがとう、とセシルは改まって丁寧に頭を下げた。

 あれはたまたま上手くいったのだと言うべきかルーチェは迷ったが、言葉は全て飲み込んだ。

 そこへ、部屋の扉をノックする音が響き、見知った顔が現れた。宰相であるエヴァンと騎士のアスランだ。

「失礼いたします。遅くなりました」

 エヴァンは扉を閉めると、セシルの傍までやって来た。テーブルを挟んで向かい側にいるルーチェを見て、一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの会釈をした。