亡国の聖女は氷帝に溺愛される

「流石は聖女様ですね」

 春を閉じ込めたような声だ。声がした方を向くと、そこにはヴィルジールを支えてここまで連れてきた男性が立っていた。

 白銀色の髪に、透けるように白い肌。どことなくヴィルジールと顔立ちが似ている。ヴィルジールを冬と例えるならば、目の前の男性は春だ。

 男性は左胸に手を当てながら、優雅に頭を下げた。

「申し遅れました。私はセシルと申します」

「ルーチェと、申します。セシル様」

 セシルという名には聞き覚えがあった。それは以前、ヴィルジールと城下に出かけた日に、彼の口から聞いたものだ。

『避難民どもは城下ではなく、セシルの領地で面倒を看てもらっている。一人残らずな』 

 ヴィルジールが呼び捨てにし、身体を預けるほどに信用している。そして、領地を持っている身分であり、彼の私室に出入りできる。ともすれば、セシルさんとやらは彼と血縁関係にある人か、もしくは友人だろうか。

「ふふ、考えていることがお顔に出ておられますよ」

「ご、ごめんなさい……!その、あの……」

 吃るルーチェに、セシルは優しく笑いかけると、たった今入ってきた扉を開けた。

「兄上は眠っていらっしゃるようですし、隣にある応接室に行きましょうか」

「……!では、セシル様は……」

「はい。私は皇帝陛下の実弟でございます。さあ、こちらに」

 セシルはヴィルジールとよく似た顔に、蕩けるような優しい笑顔を飾ると、ルーチェに手を差し出した。