亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 ──さて、どうやってこの場を切り抜けるか。貼り付けた笑顔の裏側で、いくつか策を立てたその時。

 柔らかい風が二人の間を吹き抜け、辺りに甘い香りを漂わせた。

「──相変わらず仲良しですね。エヴァン殿と兄上は」

 春を閉じ込めたような声に、エヴァンは顔を上げ、ヴィルジールは腕を下ろした。そっと現れた声の主の方を向くと、そこには予想通りの人物が佇んでいる。

「セシル様……!」

 白銀色の髪に、真昼の空色の瞳。鼻筋や口元はヴィルジールに似ているが、彼よりも穏やかで柔らかい印象を受けるセシルは、ヴィルジールの腹違いの弟だ。

「……セシル」

 ほんの少しだけ、ヴィルジールの目元が和らぐ。それは彼の弟であるセシルと、長年仕えているエヴァンくらいしか分からないだろう。

「はい、兄上。お久しぶりにございます」

 セシルは優美な微笑みを飾ると、見惚れてしまうくらい美しいお辞儀をした。それから周囲に誰もいないことを確認すると、ヴィルジールとエヴァンに近寄り、密やかな声で告げる。

「執務室まで押しかけてしまい、申し訳ございません。ホールでお待ちしていたのですが、セントローズ公爵がいらしたので急ぎ参りました」

「セントローズ公爵が?」

「はい。御目通りを願っております。緊急だそうで……」

 滅多に城を訪れない公爵家の名に、ヴィルジールが怪訝そうに眉を寄せる。同じくエヴァンも顔色を変え、ジャケットの襟元を正した。