亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 ついにエヴァンの声が届いたのか、執務室の扉が開かれる。そこからひんやりとした空気が漏れているのは、気のせいではない。

 エヴァンはひと呼吸置いてから、満面の笑みを飾った。

「──陛下!よかった、私の声が届いたのですね」

「……エヴァン」

 エヴァンはドアノブに手を掛けようとしたが、ヴィルジールの顔を見てギョッとし、即座に半歩後ろに下がった。

「これはこれは……ご機嫌麗しゅう」

 半分ほど開かれた扉の向こうには、絶対零度の眼差しでエヴァンを見下ろすヴィルジールがいた。目を合わせたら凍らされ──いや、氷の塊にされるに違いない。

「今日限りで貴様はクビだ」

「何を仰いますか!私がいなくなったら、困るのは陛下ですよ!?」

「宰相になりたい者など探せばいくらでもいる。今すぐ荷物をまとめて、新しい職場を探すことだな」

「年中無休で貴方の下僕になりたい人なんて、世界中どこを探してもいませんから!」

 下僕という単語に、ヴィルジールの眉がぴくりと動く。そこでエヴァンはしまったと思い、そそくさと廊下の壁に後退ったが、エヴァンが後ろに下がった分だけヴィルジールは詰め寄ってきた。

 ドン、とヴィルジールが壁に手をつき、頭ひとつ分背が低いエヴァンを見下ろす。エヴァンはヴィルジールと壁の間に挟まれ、身動きが取れなくなった。