亡国の聖女は氷帝に溺愛される



「──陛下! 二時間もどちらへ行かれていたのですか!?」

 青い絨毯が敷かれている廊下に、エヴァンの声が響く。ヴィルジールはため息を一つ吐いてから足を止めた。

「静かにしろ。ルーチェが寝ている」

「……はい?」

 振り返ったヴィルジールはルーチェを横抱きにしていた。

 エヴァンはぱちぱちと瞬きをしてから、ヴィルジールとその腕に抱かれているルーチェを交互に見て、また瞬きをした。口を開けたまま、同じ動きを繰り返す。

「……その方は、聖女様……ですよね?」

「そうだが」

「何故陛下が運んでいるのです?というか、どうして眠って……?」

「貴様は目の前で小娘が寝ていたら、土の上に置き去りにするのか?くだらない質問をするな」

「いや、ちょ、陛下っ……」

(──いつもの貴方なら“だから何だ”とか“関係ない”と言って、放っておくに決まっているのに!)

 まだ話は終わっていないというのに、ヴィルジールはエヴァンを置いて歩き出した。その後ろを追いかけるエヴァンの手には皮の手帳が握られている。

「陛下!今朝もお伝えした通り、本日は来客がありまして!」

「知っている」

「でしたら、聖女様は使用人に預けて、謁見の間にお急ぎください!もう到着されているのですよ!」

「来客とは言っても、相手はセシルだろう。身支度に時間がかかったとか、適当な言い訳をすればいい」

 ヴィルジールは不機嫌な声で返すと、執務室の扉を開け、その向こうへと消えた。