亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 国が滅んだことも、生命が芽吹かなくなったことも、今初めて知ったことだ。ならばやったのは自分ではないと言えばいいが、少女は何も言えずにいる。

 分からないのだ。身に覚えはないが、少女の記憶は何もない枯れた土地で倒れていたところから始まっている。

 ならばその前はどこで何をしていたのか。どうしてあの場所にいたのか。何も分からないから、否定さえできない。

「分かりません。何も憶えていないのです」

 ヴィルジールの横顔から、遠くの地へと──まっさらな大地へと目を向ける。ここからでも、その場所が寂しいことが見て取れて、胸が痛んだ。色鮮やかな国土の向こうは、茶一色だ。

 そこに、自分はいたのだろうか。国というものがなくなる瞬間を見ていたのだろうか。記憶を失う前の自分は、そのきっかけとなることを知っているのだろうか。

 考えても考えても分からなくて、何と言い表したらよいのか分からない気持ちが芽生えた。今はただ、肺の奥が痛くて堪らない。

「国を失った民は路頭に迷い、オヴリヴィオに助けを求めてきた。宰相が事情を問いただしたところ、民たちは口を揃えてこう言ったそうだ。聖女は聖王を殺し、国も消し飛ばした罪人だと」

「私を知る人が、そう言うのなら……きっとそうなのでしょう」

「認めるのか」

 少女はぎこちなく笑った。

「私は何も憶えていないのです。……大罪を犯したのなら、償わなくては」

 ヴィルジールは眉一つ動かさずに「そうか」と短く吐くと、少女を置いて中へと戻っていった。