亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 次に読んだイージスに関する書には、イージスは霊獣と人が共存する国であること、霊獣は気高く神々しい獣であり、聖者と誓約を交わした霊獣が聖獣と呼ばれる、と記されていた。

 ともすると、その存在はルーチェの傍にも居たということになる。ルーチェを選んでくれた聖獣は、どんな姿をしているのだろうか。無事でいるのだろうか。

 夢中になって読み耽っていると、目の先にあるガラスの扉が開いた。現れたのはヴィルジールだ。

「……ルーチェ?」

「ヴィ、ヴィルジールさまっ……?」

 ルーチェは慌てて立ち上がり、服の裾についた葉を手で払い落としてから、お辞儀をした。

 ヴィルジールは仕事の途中で抜け出してきたのか、きっちりとした格好をしていた。白銀色の髪は前髪を左右に分けるようにセットされ、タイの結び目には金と青いサファイアの装飾が光っている。ジャケットは置いてきたのか、シンプルなブラウスに品の良いベストを合わせていて、すらりと伸びる脚がよく見えた。

「いらっしゃるとは思わず、失礼をいたしました」

「それはこちらの台詞だ」

 ヴィルジールは口元を和らげると、ルーチェの目の前まで歩み寄ってきた。

 それから、ルーチェはヴィルジールと少しだけ話をした。皇帝である彼ならば、色々なことを知っているだろうと思い、その知識に肖ろうとも思ったのだが──その図々しい願い事は、すぐに胸の内で留めた。
 ヴィルジールの顔色が悪く見えたからだ。

 顔を覗き込むと、夢見が悪かった所為かもしれないと語った。だがどんな夢だったのかは、よく分からないと言う。