亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 書庫を出たルーチェは、離宮へと向かう途中にあった庭に寄り、草の上に腰を下ろした。天気が良いから木の下で読書をしようと思ったのだ。

 敷物を敷いてくれたセルカが、読むのを後回しにしている本を抱えながら、軽く頭を下げる。

「後ほどお飲み物と軽食をお持ちいたします」

「ありがとうございます、セルカさん」

 ルーチェはセルカを見送り、ノエルが一番最初に選び取った本を手に取った。

(ええと、これは……聖者に関する本なのね)

 背には【聖者】とだけ書かれている。表紙を捲ると、人と翼のある生き物が額をくっつけ合わせている絵が描かれていた。

 これはつい先ほど、ノエルがルーチェにしてきたことに似ているように思う。

(──聖者は、聖獣に選ばれた特別な存在である。……聖獣って?)

 見慣れない単語に、ルーチェは首を傾げた。魔獣は知っているが、聖獣とは何だろうか。次のページを捲ると、表紙と似た絵とともに、こう記されていた。

 【──聖獣は、聖者を選ぶ。聖獣に選ばれ、誓約を交わした者が聖者である。聖者と聖獣の縁は、魂が滅ぶまで有効である】

 ルーチェは挿絵をじっと見つめながら、言葉の意味を考える。

 要約すると、聖女も聖王も聖獣というものに選ばれた者であり、両者は魂が滅ぶまで共に在る──ということだろうか。